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2016-12-11[n年前へ]

「平面的に見える満月」と「立体的な月蝕」の秘密 

 太陽と正反対の空に浮かぶ満月は、とても平面的に見える。まるで、真っ平らな円を切り抜いて、夜空に貼り付けたように見える。白いピンポン球を手に持って、光を当てながら眺めたときのような、「中央近くは明るくて、周辺部分が滑らかに暗く落ち込む陰影が付いた、立体感ある見え方」にはならない。

 球の周りが徐々に暗くなる陰影は、物体表面に当たった光が、表面から外に帰っていく際に、周囲に等しく方向性を持たず返される時に生じる。そんな条件では、球の中心から端部までコサイン関数状の陰影が生じる。それでは、遙か古代に信じられていた平面状の月でなく、現実には3次元球体であるはずの月が陰影無く、真っ平らに見えてしまうのだろうか。

 その秘密は、月表面の反射特性にある。月の表面は、その表面を照らす光を、その光が発された方向へ返す性質があるからだ(Diffuse Reflections from Rough Surfaces )。満月の時、月を基準にすると、月を照らす太陽は地球の後ろにある。そして、月を照らす太陽と同じ側に浮かぶ地球から月を眺めると、月の表面反射特性は「陰影がほとんどない、真っ平らな平面状の満月」を空に浮かび上がらせることになる。

 自分を照らす光を、その光が発された方向へと返す再帰性反射と呼ばれる性質は、急峻な凹凸の表面形状や(交通標識などで使われる)透明ビーズ(やキャッツアイ)など、多くの材質で現れる。再帰性の反射性質が現れる理由は、たとえば、前者の急峻な凹凸形状の場合であれば、斜めから当たる光も、表面が急峻な凹凸形状*であれば、斜面(の法線方向に対し)垂直近くに光が当たり、その光が元来た方向へと帰って行きやすくなるからで、後者の透明ビーズでは、ビーン内部の反射により光が元いた場所へと戻っていくからだ。

 通常の満月がとても平面的に見える一方、同じ満月の時期に稀に訪れる皆既月蝕中の月は、とても立体的に見える。それは、太陽からの光を地球が遮りつつ、けれど地球大気が屈折させた太陽光は、月表面を見事なまでな立体的でグラデーション豊かな、名カメラマン顔負けの素晴らしいライティングとなる。

 次に日本で見ることができる皆既月蝕は2018年1月31日らしい。その満月を見ることができたなら、立体感溢れる月を眺めてみたいと思う。


*そうした形状の表面反射を表したモデルが、Oren–Nayarの反射モデル

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